明日のうんこがめちゃめちゃ臭い可能性
その日の僕は、今日は夜更かしができるぞと浮かれ調子だった。仮に翌日が休日ではなかったとして素直に床に就いていたかと聞かれると少々疑問は残るけれど、後ろめたさなく起きていられるという点でやはり気持ちは違ってくる。
大抵の学校には存在するだろうから、何も得をしているわけではないのだけれど、その日だけはなんとも形容しがたい優越感に浸れる特別な日。
かく言う僕もその優越感に完全に取り込まれ、普段興味のかけらもないサッカーの試合にエキサイトし、ポテトチップスを口に放り込んではゲームに熱中するのんきな夜を過ごしていた。
というか、気づいたら朝だったんだけどね!
そんなこんなで眠くなったら寝るなどという本能任せな最低で最高の休日が幕を開けるわけだ。このまま昼過ぎまで寝て、なんとなく起きてなんとなくゆったり過ごす。
そんな優雅な一日が僕を待っている......はずだった。
僕が眠りについてから何時間も経たない頃、キュイーンキュイーンというどこかで聞き覚えのあるひたすら不快な高音に目を覚ますと、驚いたことに、幼少期地底人になるんだと意気込んで必死に地ならししてもびくともしなかったあの大地が、ものすごい勢いでゆれ動いているではないか。
いやはやこれはいかに。
素敵な休日の開幕に新手の祝福か。それともいつまで経っても創立記念日が休みにならないことに業を煮やした某大学の学生たちの反逆か何かか。
寝ぼけまなこでそんなことを考えながら、迫り来る恐怖にゆれが収まるまで体は硬直し続けた。
というわけで、震源が近すぎてまったく意味を成さなかった緊急地震速報と最高級の睡眠を妨げた大地に腹を立てながら二度寝を決め込み、休日を仕切り直したのがきのうの話。
そして一夜明けた今日、ひとつの疑問が生まれる。
うんこしてるときに被災したらどうしよう。
今回こそ、僕の住んでいる地域では鉄道がすべてストップする以外に生活に影響が出るような被害はなかったわけだけれど、もし甚大な被害が出るような地震をダイレクトに受けたら、の話だ。
もしうんこしてるときに大地震が起こったら、目まぐるしいゆれにうんこが暴れてお尻がうんこまみれになるかもしれないし、肛門にうんこを携えたまま飛び上がったお尻が着地点を間違え便座とお尻のあいだでうんこをペースト状にしてしまうかもしれない。
どっちにしろお尻がものすごく汚れるのは免れない。いやだ。
そして何より僕の最大の懸念は、地震のときこわいものランキングをとったら必ず上位に食い込んでくるであろう、断水だ。
無事うんこを産み落としたあとも、僕たちの戦いは終わらない。
断水してしまった場合、うんこを流せるのはタンクに溜まっている水のぶん1回きり。はたしてその1回を今使ってしまっていいのだろうか。
無論、うんこをそのままにしておくというのも不衛生極まりないけれど、当然明日もうんこはするだろう。仮に今最後の水を使ってしまったとして、明日のうんこがめちゃめちゃ臭かったら?
部屋に漂う激臭に耐えながらいつ尽きるかもわからない食糧を日々消費し続ける苦痛は想像にたやすい。
ここで僕は、うんこを放置したくない気持ちと明日のうんこがめちゃめちゃ臭い可能性を天秤にかける。
正直言うと、すぐには結論は出なかった。
うんこを放置したくないからと言って今流してしまうと結局明日のうんこを放置することになるから、明日のうんこがめちゃめちゃ臭い可能性をとるのが一見正しいように思えるが、そうすると今度はあさってのうんこがすさまじく臭い可能性が浮上してくる。
これを繰り返していくと、帰納的にうんこを流すことができなくなり、せっかくの1回ぶんの水が無駄になってしまう。
実に難題だ。
苦悩の末僕が導き出した答えは、毎日うんこを流せるだけの水を確保しておくこと。
そういうわけで近所のスーパーにいったんだけれど、完全に出遅れた。僕のうんこを流すべく生まれた水は防災意識に目覚めた近隣住民によって買い占められ、売り場からめっきり姿を消していた。
やれやれ、うんこを流したいという気持ちはみんな同じみたいだね。
そういえば、遠足の最中に被災した7年前は、なんとか学校に戻ろうというバスの中で、窓にお尻をくっつけて通りすがりの人を驚かせている友人を見てゲラゲラ笑っていた気がする。あの頃から何ひとつ成長していない。
大人になるってなんだろう。