夢うつつのデフィケーション
毎度毎度、僕という人間は実に愚かな生き物だ。明日の自分の能力をまるで別人かのように信じ込み、不可解なまでの期待を膨らます。明日の僕は、紛いもなく今日の僕の延長線上にあるというのに、明日こそはがんばれると根拠のない自信のもと、あるいは「がんばってね明日の僕!」と無責任な自力本願を発揮してザビエルの頭のてっぺんみたいに不毛な一日を繰り返していく。
きのうもきのうでやりたいことはたくさんあったのだが、結局うんちをした後お尻を拭く理由に思いを馳せてしまうほどにぐだぐだと過ごしていた。唯一やったことといえば、予測変換でうんちの絵文字が出てくる言葉をできるだけたくさん見つける遊びくらいである。
あっという間に夜になり、次の日のことを考え始めた。祝日とはいえゆっくりしている暇はない。明日こそはちゃんと朝起きて勉強とか掃除とかいろんなことするぞ!そう意気込んだところまではよかったのだ。まさかこのときはそんな決意が原因でとんでもない事態を招くなんて予想できっこなかったからね。
そして今日の朝である。
ピピピピ、ピピピピ......。
おいおいきのうの僕よ。せっかく大学もバイトも休みだというのにこんなに朝早くに起こされる僕の身にもなってくれ。
あまりにも予想通りの展開にザビエルの頭も準備万端だ。産毛の一本さえ生える余地を許さない一日がまた始まろうとしている。
しかし、どうしたものか、スマホのアラームがなかなか止まらない。
ピピピピ、ピピピピ......。
ああ、早くこの耳障りな音を消して絹のようになめらかで温かい世界に戻りたい。潜り込んだ布団からごそごそと手だけを出してご主人様の眠りを妨げる不躾な鳴き声を止めようと試みる。が、止まらない。
ピピピピ、ピピピピ......。
なんなんだ一体。早く僕をつらい現実から解放してくれ。なんだかとても幸せな夢を見ていた気がする。白地にパステルカラーのドットの入った背景。眩しい光に照らされながら、目の前には艶やかな黒髪ロングに透き通った瞳の女の子がやわらかそうなほっぺを赤らめてちょこんと座る。僕らはただただ微笑み合っていた。何にも代えがたい奇跡の空間。早くあの世界に......早く......。
ピピピピ、ピピッ............。
ようやく辺りが静寂に包まれ、理想郷へと意識が吸い込まれていく。
ここまでが朝の記憶。次に目が覚めたときにはもう時すでに遅しという感じで、何が遅しなのかというのは後で説明するのだけれど、僕は恐怖と焦りのあまり思わず叫んでいた。
気持ちいい目覚めだ。やはり二度寝って最高だね!
ソーシャルゲームのログインボーナスをもらおうとスマホを手に取ると、身に覚えのないラインが開きっぱなしになっていた。
......。
............。
こ、これは......!?
そ、それほど親密じゃない先輩に知らず知らずのうちにうんちの絵文字送りつけてるううううううう!!!!
しかも全然脈絡ない感じで突然送りつけてるんならまだしも向こうからの連絡に対してまったくもって返答をしていない形でうんちの絵文字送りつけてるうううううううう!!!!!!
二度寝していたもんだからそのラインからは既に何時間も経っており、既読の二文字の横でうんちの絵文字が馬鹿にするような笑みを浮かべる。
弁明するには時すでに遅し。
予測変換でうんちの絵文字が出てくる言葉をできるだけたくさん見つける遊びが仇となった。おそらく、アラームを止めようと悪戦苦闘している間に通知欄からラインが開かれ、予測変換で出やすくなっているうんちの絵文字がまんまと入力されそのまま送信してしまったのだろう。
無論、僕は今謝罪会見の準備に追われている。貴重な休日がまたしてもくだらないことで潰されてしまいそうだ。まったく勘弁してほしい。