アンハッピーバースデー

1月というのは、心機一転何か新しいことを始めたり、あるいは今まで中途半端になってしまっていたことに改めて気合を入れなおしたりするにはこれ以上にないくらい都合のいい時期だ。

 

かくいう僕も、2018年からはがんばろうなどというこれまで何百回と言ってきたような言葉を引っさげて新年を迎えたわけだが、どうにも不思議な初夢を見た。

 

ひょんなことから何らかのマラソンの代表に選ばれてしまった僕は、いやいやながらグラウンドで練習をしていた。

 

するとどうだろう、僕とそっくりな、いや、そっくりというか、もはやもうひとりの僕と言うべきか、そんな人物が狭い肩幅をせいいっぱいふくらませて颯爽とグラウンドに入ってくるではないか。

 

「おやおや、どうしてこんなところに僕がいるんだい?」

 

待てよもうひとりの僕。その喋り方は鼻につくからやめろ。それとまずは僕が僕以外に存在していることに驚け。いろいろおかしいぞお前。

 

「お、やってるやってる。おれも混ぜてくれよ」

 

そう思う間もなく背後から響く別の声、これまた聞き覚えのある声におそるおそる振り向くと、期待どおり、いや、むしろ予想がはずれることを期待していたのだが、やはり見覚えのある人物がにやにやと気持ち悪い笑みを浮かべて佇んでいた。

 

ああ、もういい加減にしてくれ。どうしてよりにもよって僕というどうしようもない人間がこんなにも増殖しているんだ。せめてそのとてつもない猫背をなおしてからきてくれ。

 

そんなこんなでその後も増殖を続けた僕なのだが、しばらくして女神の降臨である。

 

「どうやら精神の分離が起こっているようだな」

 

のっけから意味がわからないがとりあえず聞こう。続けてくれ。

 

「ヒトには感情を司る6つの色がある。喜の白、怒の赤、哀の水色、楽の黄色、勇気の緑、諦めの青」

 

そういえばここにいる僕らはみんなハチマキの色が違うな。僕は黄色......楽か。いやでも......。

 

「6つの色が1つになったとき、ヒトはこれまでにない力を発揮し困難を乗り越えることができる。元に戻りたかったらとにかく目の前の壁に助け合い尽力することだなフホヒヒヒヒヒ」

 

そう言い残して女神は燃え尽きるろうそくの炎のごとく姿を消した。

 

ここにいる僕らの思いはひとつであろう。女神は6つの色が1つになったときと言った。しかしどう考えてもここには僕が5人しかいないのだ。そして誰もがあと1人の僕がここにいない理由を即座に察した。

 

5人の僕が口を揃えて叫ぶ。

 

「青諦め早すぎ!!!!」

 

そんな目覚めの正月。

 

これは何か将来に漠然とした焦燥を感じる僕の深層心理からのメッセージ、あるいは神様からのもっとがんばれよという警告なのだろうか、とにかく気を引き締めていくぞと誓ったのがつい2週間前の出来事なのだが、いやはや油断した。

 

先の誓いを立てた数日後、誕生日を後輩女子と一緒になどというヒキオタニートにあるまじきミラクルラッキーデーを過ごしてしまった僕は、浮かれ調子のまま、その日がレポート提出日だったことも、次の週に期末テストがあったことも、すべて忘れて、のんきな毎日を送ってしまった。

 

楽しかったからOKというのが本音なのだが、無論、いくつかの単位は闇に葬られたわけで、それにもめげず、餅を絵に描くはらぺこ坊主よろしく粛々と試験勉強の計画を立てている現在である。

 

平成が終わるまでに卒業できるか、僕の闘いはこれからが本番だ。