変態紳士の全滅オーバースリープ
どこか知らない場所の、知らない誰かの笑い声が聞こえてくる。ゆっくりと体を起こした僕は、声のする方をぼんやりと眺めた。
また、つけっぱで寝ちゃったのか......。
テレビの向こうでは、見たこともない景色が次々と流されている。なんとなく、懐かしさとか、温かさとか、そういうものを感じてしまう僕の知らない街。
何気なく過ぎていく時間の中で、僕に何ができたのだろう。
立ち止まった不安も、儚く過ぎ去った日々も、今までの選択がすべて正解だったかどうかなんて正直わからない。わからないけれど、確かに僕が選んできた道だ。だからこそ、僕は僕の創った今を大切にできたら、もう少しだけ、前に進める気がする。
ベランダに出ると、すっかり冬が始まったみたいだ。澄んだ空気が体に染みる。頬をつんと刺す風に乗せて、なぜか笑顔がこぼれた。
遅く目が覚めた朝は、太陽がまぶしい。
......。
............。
ってうおおおおおおおおい!!!!!
言ってる場合か!!!!
僕に何ができたのだろうとか言ってる場合か!!!!!!
何かっこつけてんねんこいつは。これで5連敗だからな自分!!今週一度足りとも2限に起きられてないからな自分!!!
何ができたかちゃうねん学校に行けたかやねん。学校に行け!!そんでなんやこの唐突の関西弁は。しっかりしてくれよほんとに。だいたい何よ遅く目が覚めた朝って。
もう11時すぎ!!わかる?昼なの!!!
そら太陽もまぶしいわ。
なんたって僕の部屋は南向きだからね!!!!
そんなこんなで3限には遅刻するまいと急いで準備をして家を出たんだ。急いでいたからかな、その後の6時間、学校にいる時間をずーっとチャック全開で過ごしてしまったわけだ。
まさか授業中に突然奇妙な笑い声をあげながらイタリアのゴールキーパーの名前を叫ぶ人が1週間後には授業中に突然奇妙な笑い声をあげながらイタリアのゴールキーパーの名前を叫ぶチャック全開の変態野郎にまで昇格するなんてね。
いや、むしろこれは降格か?
食堂で大きく伸びをするついでにしれっとチャックを閉める。僕の中の変態はしばらくこうしてしまっておこう。なんたって僕は本当は紳士だからさ。
というのがきのうの話。
今日はこれからバイトなわけで。チャックをしっかりしめて家を出る。かわいい子どもたちに僕の変態を晒すわけにはいかないからね。
台風が近づいてきているらしく、なんだか荒れた空模様だ。
変態紳士の長い一日が始まった。