うんちと赤ちゃんの区別がつかない件

 

眠気を覚ますように頭からシャワーを浴びる。ふと鏡に写ったありのままの自分の姿を見て、僕は絶望した。

 

最近太ったな......。

 

誰に語りかけるでもなくつぶやいた言葉が、一人暮らしの狭い浴室に切なくこだまする。

 

今日も肌寒い。濡れたからだを雑に拭いて、急いで学校の準備をする、そんなある秋の日の話。

 

 

ところで、僕はうんちがでかい。一体僕のからだの中のどこにそんなスペースがあったのかと驚愕するほどにもりもり出る。

 

そんな超健康体の僕だが、ここ最近はどうにもうんちの出が悪いことに悩まされていた。

 

妊婦のようにぽっこり膨らんだ下腹を見つめ、たぬきよろしくぽんぽこ叩いてみる。一時はついに自分にも中年太りが到来したのかと絶望したものの、中年と呼ぶには十年余り早すぎるのではないか。

 

そこで僕はある仮説をたてた。

 

このぽっこりおなかの中には、ここ数日出ていなかったぶんの、とてつもない量のうんちがぎっしり詰まっているのではないだろうか。

 

そこで便意はないものの便座に座ってみる。

 

......何も出ない。

 

いやはやこれは困った。見事なうんちだけが取り柄の僕が便秘ともあれば、残るのはただの留年うんち野郎である。どっちにしろうんちなら変わらないとの意見も見受けられるが、それはそうとこのだらしないおなかをどうにかしたいのだ。

 

座ってだめなら上から押し出そう。

 

次に僕がとった行動は、暴食である。新たにうんちを創生してしまえば、旧うんちはたまらず肛門から飛び出してくるだろう。

 

天才的なひらめきにカツサンドをむさぼり食う。

 

完食から十数分経った頃だろうか。火山が噴火する前の不気味な地響きのように下腹がうごめきだす。

 

きた...!

 

あわててトイレにかけこみ、ズボンとパンツをおろす。便座に腰をかけた次の瞬間...。

 

 

ブリュッブリュリュリュドボボボドボドボボボボボボボボボブリブリブリドバーーーーー!!!!!

 

 

豪快な音をたてて産まれるかわいいうんちたち。ひさしぶりだね!会いたかったよ!

 

気になるおなかを見ると、今朝とは見違えるほどにきれいさっぱりへこんでいた。こうして僕の仮説は立証されたのだ。

 

さて、こうなってくると話は少し複雑だ。

 

便秘に苦しむ僕のおなかはまさしく妊婦さながらの膨らみ方であった。

 

よく電車で妊婦さんに席を譲ったらただ太っている人で、ひどく怒らせてしまったなんていう笑い話があるが、太っているのと妊娠しているのくらいはさすがに見分けがつくだろう。

 

しかし、今回の件、便秘に関しては到底見分けがつくとは思えない。

 

そこで以下のようなトラブルが想定される。

 

ガタンゴトン、ガタンゴトン......。

ふと目に入る、おなかをさすってしんどそうに立っている女性。

 

(あれは......妊婦かな?便秘かな......?)

 

(おなかをさすっている......。おなかが痛いのか?いや、あの優しいさすり方、そしてあの眼差しはまさしく母の目......。)

 

(でももし妊婦だと思って席を譲って便秘だったら失礼だよな?)

 

(いや、きっと妊婦だ!よし......!!)

 

「あの!!」

「......?」

「便秘さんですよね?この席どうぞ!」

「......」

「......!!」

「どういう意味ですか?」

「え、いやっ、その......」

(言い間違えたーーー!どっちか迷ってたら妊婦と便秘言い間違えたーーーーーー!!!)

「この子はうんちなんかじゃありません!失礼です!!!」

 

とまあこんな感じである。こんなトラブルを起こせばビンタされること間違いないし、最悪の場合通報される。

 

さて、この場合妊婦と便秘を言い間違えたことが直接のトラブルの原因になったわけだが、そもそも妊婦と便秘を迷うことがなければ言い間違えることもなかったと考えられる。

 

このことから、世の妊婦たちが快適に電車に乗ることができるように、妊婦と便秘の区別をつけられるようにする訓練が早急に推し進められるべきだ。

 

妊婦と便秘の写真がランダムに表示され、それを順番に仕分けしていくゲームアプリの開発などが待たれる。

 

学校教育に組み込んでもいい。

 

小学生のうちは妊婦と便秘の区別は難しいだろうから、せめて赤ちゃんとうんちの区別はつくようにしておく。

 

そして中学高校で本格的な妊婦と便秘の仕分け訓練を受けていく。

 

妊婦と便秘の区別がつかなければ、今の日本に明るい未来はない。